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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)1803号 判決 1969年7月30日

原告 上野開発株式会社

右訴訟代理人弁護士 高橋喜一

被告 株式会社協和銀行

被告 橋本平三

右訴訟代理人弁護士 吉原利郎

主文

被告株式会社協和銀行・同橋本平三は、原告が別紙目録不動産につき、東京法務局台東出張所昭和四一年四月二一日受付、第一〇、一三七号をもってなされている停止条件付所有権移転仮登記に基づく本登記手続をなすことを承諾せよ。

訴訟費用は、被告らの負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一項同旨の判決を求め、その請求原因として、

一、別紙目録記載の建物(以下本件建物という)は、もと分離前の相被告小林オミナ(以下訴外オミナという)の所有であったが、左の経緯をへて、原告がその所有権を取得した。

1  原告は、昭和四一年四月二〇日訴外オミナ、分離前の相被告小林雄一郎(以下訴外雄一郎という)との間で、左の契約を締結した。

(一)  原告は、六〇〇万円を限度として、訴外オミナ、同雄一郎両名に金員を貸しつける。

(二)  両名は、連帯してこれが返済にあたる。

(三)  利息は、年一割五分、遅延損害金は日歩八銭二厘とする。

(四)  訴外オミナは、本件建物に(一)による債務の担保のため根抵当権を設定する。

(五)  原告は、右債務の弁済を受けることができない時は、その選択により代物弁済として、債務の支払にかえて本件建物及びその敷地賃借権を原告に譲渡するよう請求することができる。

(六)  代物弁済となった時は、両名は直ちに本件建物を明渡す。明渡しを遅延した場合、その完了にいたるまで代物弁済発効時の残存債務に対し、年三割の割合による損害金を支払う。

2  そして、原告と訴外オミナは、東京法務局台東出張所昭和四一年四月二一日受付第一〇一三七号をもって本件建物につき、元本極度額六〇〇万円、利息年一割五分損害金日歩八銭二厘債務者訴外雄一郎とする根抵当権設定登記と右代物弁済の予約に基づく停止条件付所有権移転仮登記をした。

3  また、原告は訴外オミナ・同雄一郎に対し、右約定にしたがって左記金員を貸付けた。

(一)  昭和四一年四月二〇日、二〇〇万円、弁済期同年五月二〇日。

(二)  同年四月二六日、二〇〇万円、弁済期同年五月二七日。

(三)  同年七月六日、三〇万円、弁済期同年八月四日。

(四)  同年八月一五日、一〇〇万円、弁済期同年九月一三日。

4  同年五月三日。訴外オミナ・同雄一郎に対し同年四月三日貸しつけて当日弁済期の到来した金一〇〇万円の消費貸借上の債務を訴外オミナ・同雄一郎を連帯債務者とし、弁済期を同年六月一日と定め、1の(一)の債務に組入れて被担保債権とするとの契約を両名との間で締結した。

5  その後、同記各債務につき、その弁済期が到来したが、訴外オミナ同雄一郎はその債務弁済ができず、原告は担保権の実行を猶予するうち、昭和四二年一月一八日における残存債務総額六三五万六、八二六円となり、しかも同人らの事業は破綻したので、原告は、右債務の支払いに代えて、前示約定に基づく代物弁済予約完結の意思表示をなし、右意思表示は、同月一九日訴外オミナに到達した。

6  よって、ここに代物弁済が成立し、原告は前記代物弁済による所有権移転仮登記を前提とする所有権取得の本登記に及ばんとするものである。

二、1 ところで、被告株式会社協和銀行(以下協和銀行という)は、東京法務局台東出張所昭和四一年一二月三日受付第三四、〇六一号をもって根抵当権設定登記をなし

2 被告橋本平三(以下被告橋本という)は、右出張所昭和四一年一二月二四日受付第三七、〇九七号をもって根抵当権設定仮登記。同第三七、〇九八号をもって停止条件付所有権移転仮登記をなしている。

三、それで、原告は、不動産登記法第一〇五条、同第一四六条第一項に基づき、被告協和銀行・同橋本に対し前記所有権移転の仮登記を前提とする所有権移転の本登記をなすにつき、その承諾を求めるため本訴に及んだ。

と陳述し、

被告橋本訴訟代理人は、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め、答弁として、請求原因事実のうち、原告が本件建物について原告主張の根抵当権設定登記及び所有権移転仮登記を有すること、被告橋本が本件建物につき、原告主張の根抵当権設定仮登記及び所有権移転仮登記を有することを認め、原告が訴外オミナに対し代物弁済予約に基づく所有権移転登記請求権を有する点を否認し、原告が本件建物の所有権を取得したとの事実は争う、その余の事実は知らないと述べた。

被告協和銀行は、適式の呼び出しを受けたにもかかわらず、本件口頭弁論期日に出頭せず、また、答弁書その他の準備書面を提出しなかった。証拠<省略>。

理由

まず、被告橋本に対する関係について判断するに、原告が請求原因一の2の、被告橋本が同二の2の各登記を有していることは当事者間に争いがない。

また、<証拠>を綜合すると訴外オミナが本件建物を所有したことと請求原因一の1、3、4、5の各事実を認めることができる。

また、被告協和銀行は、適式な呼出をうけながら本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しないので、民事訴訟法第一四〇条により原告主張の請求原因事実を自白したものとみなす。

そうすると、原告は、訴外オミナ・同雄一郎と前記六〇〇万円を限度とする金員貸付契約を締結し、本件建物とその敷地賃借権を右債権の担保とし、原告において、右目的物件を換価処分して、それによって得た金員から債権の優先弁済をうけ、残額はこれを訴外オミナに返還することを約したもので、その停止条件付代物弁済契約または代物弁済の予約も債務を決済するための民法上の本来の代物弁済に関する契約と解すべきではなく、右の趣旨の担保のために代物弁済の予約等の形式を借用し、これによって原告が右担保物件を容易に換価でき、かつ、その優先弁済を受けることを期したものと解すべきである。従って、登記簿上における所有者名義もそのために他ならず、原告が右代物弁済の予約の完結によって本件建物等について右目的以上の所有権を取得するものでないことは明らかである。

なお、鑑定人米田敬一の鑑定結果によると本件建物とその借地権の価額が前記代物弁済の予約に基づく完結の意思表示のあった昭和四二年一月一九日当時金七六七万〇三〇〇円であることが認められるので、前記契約時の価額が当初の貸付限度額や前記債権額に比して合理的均衡を欠くものとはいえないことが推認できるが、右認定を妨げるものではない。

そして、原告は、その換価金額が債務額を超えるときは、超過分を訴外オミナに返還すべく、また、訴外オミナ・同雄一郎においては換価処分前は債務を弁済して本件建物の所有権等を取り戻すことができるものと解するか、かかる実質関係にそわない借用形式たる前記契約を直ちに無効とすることはできず、また同契約に基づく登記も同様無効の登記とすることはできない。ただ、原告が右目的以上の所有者たる名義を取得することは好ましくない。しかし、原告が、右担保目的を達するためには、前記抵当権の実行によらないときは、登記簿上一たん自ら所有名義者となって自らこれを換価処分できることが、その担保目的を容易にかつ確実に実現するために不可欠であって、この要請を無視することもできない。ところで、原告は、右担保目的達成のため所有権取得の形式を借用し、その旨の仮登記もあるのでそのこと自体違法無効と解すべき特別の事由がない以上、原告の右借用された形式に基づき、前記仮登記による所有権取得の本登記を求めることは、その所有権取得の形式がある以上、被告らにおいて、原告の右認定にかかる実質上の権利以上の権利即ち実質的または形式的なより以上の権利の行使を妨げることのできる特別の事情のある場合を除いてこれを認容すべきで、被告らがそのような抗弁を主張しない本件にあっては、本登記請求に対する承諾義務を免れないものと考える。

もっとも、原告の右本登記手続により、後順位の被告らの前記権利や地位が影響をうけることはいうまでもないが、被告らは、本来原告の前記仮登記を承知しており、かかる場合も予想できたものというべく、また、その有する抵当権の実行により、あるいは債務者たる訴外オミナ同雄一郎に対する貸金債権に基づいて同訴外人らに代って債権者代位により、原告による換価金について配当をうけ、残余金の支払を請求できる途もありうるものと考える。

よって、原告の被告らに対する請求は、理由あるものとしてこれを認容する。

<以下省略>。

(裁判官 西岡悌次)

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